Second Zone (大剣編) 第十九話
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ある世界の話を聞いた事があるだろうか、不思議の国のアリス、ピーター・パンのネバーランド、SFであればソラリスもその一つとして数えても良いだろう。しかしどれにも共通するものがいくつかある、それはその話を作っている側の存在が「人間」であるからだ。もしも猫が想像上の世界を思い描いたとしよう、其処には何が在り、誰が居るのか。時に私は思う事がある、オランウータンは人間を恐れないというが、自分の住処から捕らわれの身になって、人ならどう思うのだろうか、諦めてしまう人だって居るのだ、オランウータンはその側の存在なのでは無いだろうか?どちらが強く、そしてどちらが凶暴で、その先を思い描いたら自分に何か影響される事が起きるか、何とか命を保ち、運命に身を任せるか。
私は彼女から「あの話」を聞くまで、世界とは小さなものだと思っていた。勿論私は腐っても一科学者である、SFくらいは目を通すが、あんな誰も考え様の無い、むしろ生命が持つ一生分のエネルギーでは実現不可能な事を定義とした思想があるとは私も驚きを隠せない。しかしよく頭を解してみて、落ち着いた心で感じ取るとそれは以外にも鮮明で初々しい考えだとも思える、それがあるかも知れないと思うだけでも二流のSF作家にしてしまうのは惜しい。
私は驚きを隠せない、彼女の経緯が如何なる物だとしても。私は驚きを隠せない、この一つの多大なる実感に「老い」を感じていく事を。
-猿の悶:もう一つの自分の居場所-
此処はとても変わり栄えがある、AKと私で出来る限りの時間を費やしてこのエリアを変えたのだ。そして今、このエリアを管理する「エリアマスター」の称号を手にしているのはAK-03であり、私にはそれに及ばない。このエリアには、今では雨が止まない。そしてフィールドにも敵が現れるのが盛んになった、しかもそれらは全てAKと私で作り出した敵、この雨の中に普通の装備をする者は現実ではまず在り得ない、兵隊でも無ければそんな事はしない、兵隊でも湿気には十分気をつけるだろう。だから此処に現れる敵は傘を指した侍のような人間が多い、戦国時代や江戸時代、日本の文化を此処には取り寄せた。そうすると管理側からの要望がAKの所へと送られ、「猿の悶:もう一つの自分の居場所…このフィールドに日本・中国の伝統あるエネミーや建造物を生み出しては見ませんか?」という、言ってみればスカウトのようなものだ。AKは管理側と同じ「製作者」としての活動を試みるようになったのだ、そして勿論の事、それには私も同伴する事となった。
あれからこのエリアはずいぶんと変わり、「銀色のジュニアが作ったエリア」としてBBSでも有名になったのだ、これまでの数々の実績を含め、もうこのゲームでAK-03を知らない人間は居ないといって過言では無い位のものとなった。
私の担当は調べる事、AKにはまだ歴史や文化といったものがあまり理解し難い物のようで、そういった方にも知識が行き届く私に任せられ、デザインの方は管理側からサンプルを提供して貰える。そこでAKの勤めであるデザインやクエストの設定を定める、そこではいくつかAKのデザインした敵などが採用され、AKのイラストレーターとしての才能を見抜く。AKの母親は以前衣服の製作を担当としたデザイナーだったという、その血を引いているんだなと私が言うと、AKは少し悲しげな顔をするのだ。そしてAK-03の生まれた理由を悟り、AKのプレイヤーの心を感じ取るようになった。
私達は戦闘中、あまり話をしなくなった。それは別に嫌いという訳では無く、互いに心が通っているものと私は思っている。このゲームにも慣れ、互いの状態を把握出来るようになったのだ、戦闘のスタイルを変えてから、それには時間が掛かるものだと思っていたのだが、人間の慣れというのはとても発達しているのだと感じる。
「よぉお二人さん!」
「リュリガンか、よくこの場所が分かったな。」
「銀色のジュニア様を見たか?とか聞けば行き先なんてナビより正確さ!」
「ふぅん…そんで、この『銀色のジュニア様』にしがない槍術士が何の御用かしら?」
「あまりからかわないでやってくれよAK。」
「むぅ…斬伐がいうなら、勘弁してあげる。」
「これは在り難いですね、はは…まあ用件はいつもと同じだ。」
「PKユングルの捜索に手伝って欲しい、ついでに他の仕事も頼む、だろ?」
リュリガンはAKに慣れて来たのだと自覚する、AKの口調の悪さの理由を悟っているからで、AKは私以外の事を考えようとはしない。リュリガンは正しい方向に付き合っていっていると私は思っている、それは互いの輪を崩さないようにする為にも繋がるからである。そしてギルドマスターも頭が回る人だった、我々の私利私欲の為だけに援助をしてくれる訳でもなく、手早い交渉をこなすそれはエージェントと言っても良い。何かを得る代償、それはどんなに小さな子供にも適応される一つのルールだと言い、AKにもその承諾をさせる事が出来る、器の大きな人だった。リュリガンやラクスのような一面を持ちながらもそれを決行させる彼はギルドマスターという位置に相応しい存在だった。
-猿の悶:黒く滲む大河-
「此処まで来て、ようやくユングルの素性について分かってきた、彼はどのギルドにも属さないPCだが、相棒が居る。」
「私とAKみたいに?」
「ああ、そう考えるとお前達に似た行動を取っている…いや鏡と言っても良いのかな。」
「詳しく聞こうか。」
「ユングルはあるPKギルドから一人を勧誘し、そいつと二人組みで行動してる。その相棒ともいえるPCとコンタクトをとる事に成功した、名前は『紅い爪』という一風変わったPCで、どのPCとも名前も風貌も似ては居ないだろうし分かり易いと思う、女性キャラクターだ。」
「そいつと此処で会うのか?」
「…よし。」
「いや、彼女は此処には来ない。狙われてると分かってて来る奴なんか強がりなPKくらいだ、しかし彼女がユングルと最近着たというエリアが此処だ。」
AKは此処でそいつを倒そうと思って「よし」と気合の入った一言を言ったのだろうが、また悔しそうな顔をする。例え強引にAKに会わせようとした所で紅い爪はログアウトすれば良いだけの話、ゲームは簡単に何でも覚えられて、犯罪を行うのも容易いという事実がAKを苦しめている。
その時、私宛に一通のメールが届いた。
「斬伐?」
「ん…メールみたいだ。」
しかし、それは急展開を迎える恐怖の手紙だった。
「これは…!」
「どうしたの?」
「誰からだ?」
「…。」
教えられる訳が無かった、いや教えた所で、誰も理解出来ない事だろうと思った。理解をしようとすれば私とは違う別の結果を生み出すこの手紙の宛先人は…「私」だった。
-今すぐ其処を離れて私の所に来い、これを同じ名前で生み出した誰かとは思うな、私はお前だ。AKにも気付かれないようにする為に場所は私が決める、『丑の悶:Second Zone』だ。分かり易いだろう?-
何が起きているんだ、このゲームはやはり普通じゃない、むしろただのゲームでは無い事はこれで明らかとなった。今に至るまでの記憶が何度も交じり、自分は…私は誰で何者で、何故このゲームをする事になったのかと問い始め…
「斬伐!」
「え?」
「どうしたの、何かずっと黙り込んでるから席外したのかと思っちゃったよ。」
「ああ…ごめん、ちょっと用事が出来たんだ。」
「…メールの相手からでしょ、ボクを置いて何処かに行こうとするの?」
-AKニハキヅカレナイヨウニ-
「メールは…ゲーム内のメールじゃない、お母さんから外は雨だから傘おねがいって、あとお風呂もよろしくってさ。」
「なんだ、リュリガンみたいなのが他にも居たら私も黙って居られないもんっよかったぁ。」
ごめんねAK、今はこうするしか無い。でもどうしても連絡したい相手も居るんだ、彼ならきっと分かってくれる。私はこの先の出来事を何通りか予想した、そしてそれらを全て書き留めた。そして彼にメールを送る。
「ごめんねAK、リュリガンもせっかくの情報なのに。」
「ああ、じゃあまた今度にするわ、AKにいろいろ言われちゃうと敵わないしな、カシュガンと狩りでもしてるかぁ~。」
「私は落ちるよ、斬伐帰ったらまたメール残してね?」
「ああ…。」
AKはその場でログアウトし、リュリガンは猿の悶の街へと帰っていった。
-丑の悶-
「…何も見えない、前より酷くなってるな。」
「人が一箇所に密集する電車の車両は、こんな風に二酸化炭素が多くなってる。」
「来てくれたか…。」
「…読ませてもらった。」
「答えは?」
「勿論、信じるさ。」
-「富と永遠」さんからパーティーの誘いが来ています!-
-パーティーが結成されました!-
「…!」
「驚いたかね?これが丑の悶の齎す力だ。」
今まで濃霧で覆われていたフィールドが、一気に賑やかなキャラバンの集まりと化していたのだ。此処丑の悶は、そのフィールドに相応しいPCにしか楽しむ資格を与えない場所だった。これはどのオンラインゲームでもこんな事は考えもしなかっただろう。
「このゲーム、未だによく分からない。」
「コノゲームはいくつかの『悶』で分かれている、悶という字は悶える、つまり苦痛などのあまりからだをよじるような事を現すのだが、このゲームでは全く違う意味でこの字を使っている。『悶』とは扉などの『門』を現し、このゲームでその門を開く鍵はプレイヤーの『心』、つまり『心で門を開く』という意味で『悶』という字が使われている。今このゲームが発禁に値するか否かで世間がもめたりしてるのはそれでさ。」
苦痛のあまり身体をよじる…まるであの時の事を思い出させるじゃないか、でも悶という意味は分かったが、猿・鳥・修羅・丑というのは何なのだろう?私はそれを彼に問う事にした。
「うむ、悶にはいくつかあるというのがまずこのゲームの設定だ、ストーリーの説明を読めば大体は分かるだろう。」
ストーリー、私は公式ホームページのストーリーの欄を見た。このゲームのストーリーの設定は少し微妙な部分があり、ストーリーというより、そして設定というより考慮といった方が良いだろう。
「ゲームの内容が今一分からないストーリーに戸惑う人も少なくは無い、特に子供相手に伝わる部分が全く無いように見えるこのストーリー。簡単に悶について説明しようか?」
「ああ…私にもこれはさっぱりだ。」
「多くのRPGにはキャラクターごとに種類が分けられているものが多い、PCにもNPCにも、そしてNPCにおいては村人や国王、敵にも人やモンスターや動物といったものがある。『悶』とはそれらを解き開く扉であり、その数はそれらの種類の分ある。『猿の悶』それは知識や知恵を意味し、霊長類を主体とした悶であり、此処は人が多く関わる。『鶏の悶』それは羽化や雛、熟成を意味し、初心から離れた者の悶であり、能力がプログラマーによって定められた敵が関わっている。『修羅の悶』それは戦いや心を意味し、唯ひたすらに戦いつづける者の為の悶であり、その戦いに求める物が備わっている。『丑の悶』それは以下の全ての悶を超越し、真に強き者を選ぶ悶であり、まだ成長することの無きものを意味する。」
「…まあ、公式サイトのよりは分かり易い…と思う。」
「すまないな、まとめると『猿』は『人』で『鶏』は『中級者』、『修羅』は『戦闘』で『丑』は『強靭』だ、それぞれに意味する者がそれぞれの悶によく出てくる筈だ。」
…思ってみれば確かにそうだ、初めて私が降り立ったのはこの「丑の悶」で、その時は霧が掛かった平原で、どのプレイヤーも戸惑っていた。しかし富と永遠とパーティーを組んだ瞬間、此処には多くのPC、そしてNPCが存在する事が、勿論の事此処が一つの街だという事も理解出来た。「猿の悶」は多くの敵が人であり、モンスターは敵では無かった、敵だったとしても何かしらの事件(クエスト)に関わるものばかりだった。「鶏の悶」は降り立った最初から敵が溢れ、初心者には向かない事が理解出来る。つまりこの悶というのは、今の自分に合うフィールドを決める事が出来るという事だ、勿論プレイヤーの中には厳しい戦場が突如現れるのが好きな人も居るだろうし、全てを自分の目で確認していく冒険を好む人も居るだろう。このゲームはそういうものだったんだ。
「それらを踏まえた上で、『彼女』はこの悶を指定した…そういう事になる。」
「…丑の悶は、真に強き者を選ぶ為の悶。」
私は薄々気付いていた事を理解していた、「彼女」は私に不快感を抱いているんだ、だからこのフィールドを指定した、私が始めに望んだものは「修羅の悶」の強さでは無く「丑の悶」の強さだった。しかし私を悶による区別で置くと、明らかに「猿の悶」の知識だ。富と永遠は丑の悶が「見える」からして、彼は此処に相応しい人間だということだ。私は彼と、そして「斬伐」と同じ悶に値する「心」を持っていなかった。
「…科学者。」
「む、どうした?」
「もしも…いや、これから何が起こるか、お前には検討が付くか?」
「…分からない、でも予想を遥かに超える何かが起こるかも知れないというのもある、悪戯では無いという今の我々の考えを元としての意見だ。」
「なら、今からお前にメールを送る、それも大事に保管しておいて欲しい。それと、さっき私が送ったのと、これから送るメールは何重にもバックアップを取っておいて欲しい、これはかなり重要な事だし、お前にしても貴重な物になるかも知れない。」
「何を…考えている?」
このゲームをしてきて、私は色んな出会い、冒険、遭遇をしてきた。そして以外な自分も、気付かされていく事もあった。私の今の行動が無ければ、先の私は大変な事態になっていただろう。
「…今届いた、これからどうする?」
第十六話 『…彼女に会いに行く』
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